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雑誌会

2024.11.29

動的光重合

この『雑誌会』は、化学系の雑誌を中心に独断と偏見で研究例を選び、不定期でご紹介するコーナーです。

動的光重合と呼ばれる手法で液晶分子を整列し、ポリマーの濃度への影響を調べた研究結果になります。

Effect of polymer concentration on molecular alignment behavior
during scanning wave photopolymerization

Takuto Ishiyama, Yoshiaki Kobayashi, Hirona Nakamura, Miho Aizawa, Kyohei Hisano, Shoichi Kubo, Atsushi Shishido

Polymer Journal (2024) 56:745–751

(本文)
https://www.nature.com/articles/s41428-024-00912-x.pdf

(追加情報)
https://static-content.springer.com/esm/art%3A10.1038%2Fs41428-024-00912-x/MediaObjects/41428_2024_912_MOESM1_ESM.docx

まず、動的光重合については、『色素を含む液晶系へ偏光を照射すると,偏光方向に依存した分子配向をパターン形成できる。しかし,原理的に高価な偏光光源と光応答分子の組み合わせが欠かせなかった。さらに,二次元配向パターンの解像度は原理的にミリスケールのパターンが限界で,かつアレイ状パターンの形成には膨大な時間と光エネルギーが必要だった。
研究グループは,重合性液晶分子の光重合過程において光を時空間的に動かすことで,二次元的な配向パターンが一段階で形成できる新手法「動的光重合」を新たに開発した。光照射条件(形状,動き,強度)を変調するだけで,重合によりさまざまな分子を自在に配向できる。
スリット状の光を一方向に動かしながら重合すると一軸分子配向パターンを大面積に形成できた。』とあります。

(東工大ら,分子の配向パターンを一段階で形成)
https://optronics-media.com/news/20171113/49076/

(大面積の分子配向を一段階で光パターン形成、『動的光重合』技術を開発し多彩な配向パターンを実現」
https://www.titech.ac.jp/news/pdf/webtokyotechpr20171109_shishido_l1ypaq2c.pdf

この『スリット状の光を一方向に動かしながら重合』については、図2にその様子が示されています。

図1にはモノマーであるM6BACP、光開始剤であるIrgacyre651が描かれています。
やっている反応はこのモノマーを重合させていることです。

液晶性を示すモノマーを重合させるとメリットがあるようです。
これについては、『重合性液晶材 料は、架橋により液晶分子を配向状態のままで固定できることから、液晶分子の高複屈折性を保持した薄膜が形成可能である。』とあります。

(ディスプレイの進化を加速させる重合性液晶材料)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ekitou/2016/0/2016_PB21/_pdf/-char/ja

今回の研究例では、液晶分子の配向を揃えながら、動的光重合を行い、諸条件とその影響について調べたようです。時にポリマーの濃度との関係について調べています。このポリマーの濃度は濃度が高いほど、重合がうまく行ったということのようで、目標でもあるようです。

まず、表1のように、光の強さを35mW/cm2に固定したようです。
スリットの幅、スキャンさせる速さを変えることで、単位面積あたりに照射されるエネルギーも変わったようです。結局、単位面積当たりのエネルギー量(露光量)が影響したようですので、この値が変数になったようです。

図3 (a)~(c) は動的光重合によって得られたサンプルの偏光顕微鏡(polarized optical microscope)の観察結果です。

今回の研究例では偏光顕微鏡を利用して、複屈折を測定したようです。

偏光顕微鏡法(Polarized Optical Microscopy)を用いた複屈折の測定については『複屈折は高分子の内部構造を評価する上で重要な物性です。分子鎖が不規則で等方的な状態であれば複屈折は生じず、分子鎖が配向している状態では複屈折が生じます。また、配向度合いに応じて複屈折の値も変化します。以上のように複屈折の有無や大きさを調べることにより、分子の配向状態や結晶構造を調べることができます。』『液晶高分子の相転移挙動を示します。液晶相を示す温度では、試料の複屈折により対角位で明視野となります(図6a)。徐々に加熱し、液晶相から等方相へ相転移すると、液晶分子の配向が乱れることで複屈折が消失し、暗視野となります(図6b)。このように、光の明暗により相転移挙動を観察できます。』とあります。
https://www.spsj.or.jp/equipment/news/news_detail_75.html

使った偏光顕微鏡はオリンパスのBX53だったようです。
(システム顕微鏡)
https://www.olympus-lifescience.com/ja/microscopes/upright/bx53f2/

まず、露光量が280mJ/cm2および140mJ/cm2の場合は均一な光学異方性を示したようです。光の走査方向が偏光子に対して平行または垂直の場合、画像は完全に暗くなり、フィルムを45°回転させると明るくなったようです。さらに、ベレック補償器を用いたPOM観察により、異方性ユニット(安息香酸フェニル部分)が光走査方向に沿って一方向に配列していることが明らかになったようです。(追加情報の図S2)
一方、照射エベルギーが58mJ/cm2の場合、均一な光学異方性も一方向の分子配列も確認されなかったようです。分子配列の程度を定量化するために、様々な露光量で作製したポリマーフィルムの複屈折値(Δn)を評価したようです。(図2d、追加情報の表S1)
複屈折値(Δn)については、偏光により屈折率が違う状態で、常光と異常光での屈折率の差で算出するようです。
(複屈折とは?複屈折測定の基本)
https://www.photonic-lattice.com/useful/useful-2110/

その結果、58mJ/cm2以下の露光量で作製したフィルムは光学異方性を示さず、これは分子配列が巨視的にランダムであることを示しているようです。対照的に、140 mJ/cm2以上では一方向の分子配列が誘導され、280 mJ/cm2でΔnは最大0.04となったようです。露光量を増やすと、膜中のポリマー濃度が高くなることからのようです。以上より、分子を整列させるには、一定のポリマー濃度が必要であることがわかったようです。

続いて、著者らは分子配列挙動に対するポリマー濃度依存性は、ポリマー/モノマー混合物のLC相に関係している可能性があると考えたようです。そこで、ポリマーとモノマーの比率を変え、液晶相から透明な状態(等方液体相)への相転移温度を調べることで、分子配列挙動への影響を検討したようです。
この液晶相から透明な状態(等方液体相)への相転移については下記で見ることができます。
(液晶の相転移)
https://www.youtube.com/watch?v=Z8u8A2-bXpk

図4はポリマーとモノマーの混合物において、混合比を変えた場合のDSC測定をした結果になります。
まず、ホモポリマー濃度が99%で=ほぼポリマーしか存在しない場合は117℃に発熱ピークが見られたようです。117℃以下のホモポリマーを交差偏光板下で偏光顕微鏡観察すると、液晶相に特徴的なシュリーレン構造が見られ、117℃を超えると完全に暗くなったようです。(図4b)
ここでシュリーレン構造について、『水や空気のような透明な物質の中で、部分的な密度の違いによって光が屈折し、もやもやが見えることをシュリーレン現象といいます。』とあります。
(もやもやの正体を探れ!)
https://site.ngk.co.jp/lab/no246/

故に発熱ピークは液晶-等方性相転移に起因するようです。一方、モノマー(ポリマー濃度0%)では、30 °Cに発熱ピークが見られたようです。POM観察の結果、このピークは液晶相を示さず、結晶-等方相転移に由来することがわかったようです。(図4c)

続いて、ポリマー濃度99~20%のポリマー/モノマー混合物は、液晶-等方相転移に由来する単一の発熱ピークを示したようです。混合物の偏光顕微鏡観察でも、液晶相の存在が明らかになったようです。(追加情報の図S4)ポリマー濃度が低下するにつれて、相転移温度は117℃から61℃に低下したようです。そして、ポリマー濃度10%の混合物は、2つの発熱ピークを示したようです。高温側(赤い三角形)と低温側(紫の三角形)は、それぞれ液晶-等方相転移と結晶-液晶相転移に起因したようです。相転移温度を俯瞰するためにポリマー/モノマー混合物の相図が描かれています。(図5)この図は、ポリマー濃度が高くなるにつれて、液晶相が高温側にシフトしていたことがよくわかります。例えば90℃で行った動的光重合中の相転移挙動に注目すると、ポリマー濃度が50%より高くなると液晶相が出現することがわかります。

動的光重合中の液晶相の出現とその分子配列挙動への影響を調査するため、POM-DLPを用いて動的光重合中の分子配列のリアルタイム観察を行ったようです。
このPOM-DLPですが、『偏光顕微鏡(POM)に紫外照射装置を組み込んだPOM-DLP』とあり、そういうもののようです。
(光重合を駆動原理とする三次元微細配向膜の作製とアクチュエータへの展開)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21J14568/

動的光重合は、光の強さ35mW/cm2、光走査速度31μm/s、露光量29、280、560mJ/cm2、スリット幅26、250、501μmで行ったようです。動的光重合中の辺境顕微鏡観察の結果が図6に示されています。合わせて動画1~3もあります。

(動画1)
https://static-content.springer.com/esm/art%3A10.1038%2Fs41428-024-00912-x/MediaObjects/41428_2024_912_MOESM2_ESM.mp4

(動画2)
https://static-content.springer.com/esm/art%3A10.1038%2Fs41428-024-00912-x/MediaObjects/41428_2024_912_MOESM3_ESM.mp4

(動画3)
https://static-content.springer.com/esm/art%3A10.1038%2Fs41428-024-00912-x/MediaObjects/41428_2024_912_MOESM4_ESM.mp4

29mJ/cm2の露光量では、スリット光通過直後の領域に明るい領域が観察されなかったことから、走査型スリット光による重合過程では液晶相が出現していないことが推測されたようです。(図6a)93秒後に液晶相の出現を示す明るい領域が現れ、106秒後には全域に拡大し、巨視的には均一な光学異方性を持たない典型的なポリドメイン構造が見られたようです。ここでポリドメイン構造について、下記資料の3ページ目には『ポリドメイン構造とは,液晶がある領域内で局所的に配向し,そのような領域が多数存在する状態をいう。』とあります。
(ポリドメイン構造を有する高分子液晶のレオロジー特性)
https://www.kochi-tech.ac.jp/library/ron/2000/mec/1010224.pdf

一方、280mJ/cm2と560mJ/cm2の露光量では、スリット光の通過により、それぞれ31秒と16秒で液晶相が出現したようです。(図6b、c)これは、これらの露光量が、90℃での液晶相の出現に必要なポリマー濃度を50%以上にする(図5)のに十分であったようです。観察された液晶相領域は、これらの条件下で、一方向の分子配列による均一な光学異方性を示したようです。したがって、動的光重合はポリマー濃度の上昇を引き起こし、液晶相の出現と同時に分子配向を誘導したようです。

上記の結果によると、動的光重合によって誘導される分子配列の基礎となるメカニズムについて、重合前、非液晶モノマーはランダムな配列で存在していると思われます。動的光重合により、異方性モノマーとポリマーにせん断応力が生じ、拡散方向に沿った一方向の分子配列が生じるみたいです。ある露光量以上で動的光重合を行うと、光照射直後にポリマー濃度が50%を超え、液晶相が出現するようです。この液晶相の出現は、配向状態の維持と粘度の急激な上昇に寄与し、異方性分子に作用するせん断応力の増加をもたらすようです。(追加情報の図S5)。スリット光の通過と同時に現れる整列した液晶状態は安定化し、光の走査方向に沿って広い領域に拡大するようです。一方、露光量が低い条件では、スリット光通過中のポリマー濃度は50%以下のままとなったようです。

所感です。
今回の研究例、動的光重合(図2)の発明が素晴らしいというお話でした。
液晶物質のみならず、他にも応用可能なようです。
既に下記では『動的光重合により,あらゆる異方性ナノ物質の配向を制御するためには,本手法の汎用性について検証することが重要である。本研究では,偏光に依存して配向を変化させるアゾベンゼンを添加した系において,動的光重合に偏光照射を組み込むことにより,分子配向における偏光照射の影響について検討した。』『その結果,照射する偏光方向に応じてシアノビフェニルおよびDR1 の配向度が変化することが明らかとなった。』とあり、これからも様々な応用が期待できそうです。
(光重合を利用したアゾベンゼンの分子配向における偏光照射の影響)
https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jsap2018a/20p-PA2-21/public/pdf?type=in

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