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雑誌会

2024.06.05

あのスポンジが…

この『雑誌会の部屋』は、化学系の雑誌を中心に独断と偏見で研究例を選び、不定期でご紹介するコーナーです。

High-Efficiency Polymerization for Synthesizing Polymer
Nanoparticles in Melamine Foam Using Ultraviolet Irradiation
Tetsuya Yamamoto* and Haruyuki Morikawa
ACS Omega 2024, 9, 5273−5277

掃除用の白い、良く落ちるスポンジを使って、ポリスチレンのナノ粒子を作るお話です。

(本文)
https://pubs.acs.org/doi/epdf/10.1021/acsomega.3c05840

全体の概要については、下記に書かれています。

『ナノ粒子合成のための反応器内部構造のデザイン』
https://www.icpt.jp/kenkyuu/doc/end-R3-3.pdf

これを読めば事足りる、ということになってしまうかもしれませんが、補足しながら進めていこうと思います。

まず、今回の研究例、ナノ粒子を作ることが目的です。
『ナノ粒子を製造していくには、大きく分けて3つの手法があります。固相法、気相法、液相法』とあります。
https://www.ashizawa.com/nanoparticles/archives/1539

今回の場合は『液相法』に該当します。
エマルションと呼ばれる液滴を作る方法です。
『「水と油のように互いに溶解しない液相の一方が他の一方に微細な液滴として分散したものである」というのが、エマルションの定義である。乳化粒子系は通常0.1~100μm(100~10^5nm)程度である。』とあります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sccj/44/2/44_103/_pdf

しからば、『乳化とは水と油を混ぜることを乳化するといい、乳化して得られたものを「乳化物」または「エマルション」と呼びます。』とあります。
https://solutions.sanyo-chemical.co.jp/technology/2023/07/102496/

てなことで、エマルションという液滴を作り、それを重合させて形状を固定化させたものが、粒子であり、小さいものが微粒子、更になのサイズとなると、ナノ粒子となります。
その重合を乳化重合と呼びます。

乳化重合について、下記には、
『乳化とは、水と油のように通常は混じり合わないものを混ぜ合わせて安定することです。』
『水と油を繋ぎ止める「界面活性剤」もしくは「乳化剤」を用いて水と油が混ぜ合わさった状態を維持するのです。』
『乳化重合とは、本来は混じりあわない単体の物質同士を混ぜ合わせて重合体を作ることをいいます。』
https://sanmaru-m.co.jp/blog/2015/12/04/122

この乳化重合は上記のように、界面活性剤を使用します。
界面活性剤には石けんなどに含まれている成分ですが、有害性が指摘されています。
(水環境における界面活性剤の現状)
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/21499/15216.pdf

そこで、ソープフリーと呼ばれる技術が考案されました。
ソープフリー乳化重合による単分散ポリマーの重合ソープフリー乳化重合とは, ソープすなわち石けんを添加しないポリマー微粒子合成法であり, 最も単純な系は,モノマー/開始剤/水から構成することができる. ポリマー粒子の他の合成法がいずれの場合にも, 石けんや界面活性剤あるいは高分子分散安定剤を多量に添加するのに対して, そのような第三成分を添加しないソープフリー重合系はクリーンプロセスとしての特徴を有する.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu1944/79/2/79_2_61/_pdf/-char/en

ソープフリー乳化重合の問題点については、上記資料『ナノ粒子合成のための反応器内部構造のデザイン』に『界面活性剤を使用しないソープフリー乳化重合法では粒子同士が衝突、凝集を繰り返すことで成長するのでナノ粒子を得ることは難しい』とあります。
また、下記では、『、単純に低い開始剤濃度で重合しても、重合速度が極端に低下する問題や、表面電荷不足から重合途中に粒子同士が凝集する問題が生じる可能性がある。』とあります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/scej/2009f/0/2009f_0_301/_pdf

てなことで、ソープフリーにしたいけど、そうすると粒子同士が凝集して粒径が大きくなり、ナノ粒子にはならない!といった問題があるということです。
今回の研究例はメラミン製のスポンジを使って解決しようとしたことになります。

メラミン製のスポンジはピカ王を使ったようです。
https://www.wakog.com/item/12001310/

メラミンスポンジ、メラミンフォーム(MF)については、
https://www.gekiochikun.jp/about-melamine-sponge/

その歴史については、
https://magazine.cainz.com/article/72156

具体的な作業ですが、図3に描かれています。
φ36×20mmにカットしたメラミンスポンジの底面に64mMのスチレンを染み込ませた後、開始剤として4mMのV-501(図2)を満たしたようです。
V-501は4,4'-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(4,4'-Azobis(4-cyanovaleric Acid))のことです。
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/A1671

それらをホットプレートで30~60℃、24h撹拌加熱しながら、365nmのUV光を当てながら、重合させたようです。
なお、ホットプレートについて、本文ではEYELA RCH-20Lとなっていますが、RCH-1000、撹拌容量=20Lのことではないか?と思われます。
https://eyela-chiller.jp/products/rch1000/index.shtml?_ga=2.211245276.857679037.1711086840-147300618.1711086840&_gl=1*1aiyfcd*_ga*MTE4Nzg1MzE0MS4xNzExMDg2NzM3*_ga_ECWT5W5L22*MTcxMTA4NjczNy4xLjEuMTcxMTA4Njg0MC42MC4wLjA.*_ga_8DZETVTQ58*MTcxMTA4NjczNy4xLjEuMTcxMTA4Njg0MC42MC4wLjA.


また、UV照射装置はアズワンのLUV-16を使ったようです。
https://axel.as-1.co.jp/asone/d/1-5479-03/

そして、メラミンスポンジを重合の反応器として使うと、溶媒の流動性が抑制され、粒子同士の衝突が制御され、粒子同士が凝集する前に重合が進んで粒子化するという発想です。
これは必ずしも今回の研究例ばかりではないのですが、そもそもスチレンを重合の重合が進むと、なぜ凝集しなくなるものでしょうか?その理由は反応する二重結合の全体に対する濃度が低くなり、そのうち反応箇所がなくなる、ということでしょうか?あるいは重合が進むにつれて、硬度が上がり、物理的にくっつかなくなる、ということでしょうか?イマイチ良くわかっておりません。

結果です。
まずは反応温度の最適化を試みています。従来の反応温度は70℃だったようです。
ところが、メラミンスポンジ使うと40℃が最適だったようです。
これについて、スチレンが加熱によりメラミンスポンジの底面から上方へ拡散し、反応器内部に供給されることになるみたいですが、従来の70℃では、重合によるスチレンの消費速度がモノマーの拡散速度よりも遅く、重合反応が効率良く進行しないことが懸念されていました。そこで、この加熱による拡散速度を抑えるために、加熱重合ではなく、UVによる開始剤を用いて、開始剤の分解を促進し、加熱温度を下げることで収率の向上を試みた結果、70℃から40℃まで反応温度を下がったようです。一方、30℃では液体の拡散が十分ではなく、重合が進まなかったのではないか?ということです。

続いてメラミンスポンジの多孔質性、網目の間隔(狭さ)と得られるナノ粒子の粒径や収率との関係について調べています。
網目の間隔は式(1)で定義されているように、εで示されています。
また、網目の間隔はメラミンスポンジをプレスすることで狭めたようです。
重合反応は40℃で行ったようです。この温度では、網目の間隔を変えてもさほど変わらなかったようです。
ただ、網目の間隔が小さいほど、溶媒の流動性が抑制され、目的物が得られやすい傾向にあったようです。
この流動性が抑制された理由はメラミンスポンジと水の間に水素結合が発生し、その影響みたいです。

図6に得られた粒子のSEM写真が出ています。
ε≤の場合は粒子の粒径dpはdp<100nmとなったようです。
特に0.75<ε<0.9では、粒径の差が
特に、0.75<ε<0.9では、メラミンスポンジの間隔が減少する場合もあったりで、間隔が均一にならないため、粒子径の差は明確には認められなかったようです。しかし、0.6 < ε < 0.75では、孔径が均一となり減少したため、dpはεとともに減少したようです。過去の研究例では従来のソープフリー重合法では変動係数=CV(式(2)で定義)について、CV≤10%の単分散粒子が得られていたようです。しかし、メラミンスポンジを用いてεを制御した試料では、表1に示すように大きなCV値を示し、粒子径のばらつきが大きかったようです。高いCV値は、従来の攪拌を伴う反応器と比較して、スチレンモノマーの濃度分布がメラミンスポンジの厚さ方向に底部から分布していることに起因するようです。ε = 0.90では、間隔が広すぎて溶媒が流動しすぎ、メラミンスポンジの効果はなくなったようです。以上は図7にまとめられています。なお、表1より、すべての試料のζ電位が負であったのは、カルボキシ基などの官能基がV-501から分解したためでで、これらの基は粒子表面に露出し、分散安定性の維持に役立つ電気二重層を形成したと考察しています。

最後にメラミンスポンジ内の流動性を調査したようです。そのためにダルシーの法則を用いたようです。ダルシーの法則によれば、流速と圧力の関係は式(3)で与えられるようです。
ここで、Δpはろ過圧力、lはろ材の長さ、k0は透過率、μは流体の粘度、qは流速となります。

なお、ダルシーの法則については、
https://www.sptj.jp/powderpedia/words/11348/
https://jgs-chubu.org/wp-content/uploads/pdfupload/download/seminar/pdf/20100710/Nakano.pdf
https://civil.meijo-u.ac.jp/lab/kodaka/lecture07/seepage.pdf


図8にμq(流体の粘度×流速)とろ過圧力との関係を、それぞれメラミンスポンジ内の網目の間隔毎にプロットされています。プロットに基づく線は最小二乗法で引いたようです。Rは相関関数を表し、R2の値が大きいほど、メラミンスポンジ中の流れが均一であることを示します。これはメラミンスポンジ中の網目間隔のばらつきが少ないことを意味しています。市販のMFは、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合によって得られるメラミン樹脂を発泡させて製造されるため、もともとさまざまな網目間隔となっており、そのため、図8d(市販品そのまま?)ではR2が低い値を示したようです。そして、プレスによりεが減少すると、物理抵抗が低く変形しやすいため、大きな細孔径は小さくなりやすいようです。これは、表 1 に示すように、ε が減少するにつれて細孔径分布が均一になり、メラミンスポンジ 全体で均一な流動性と均一な粒径が得られ、結果として CV 値が低下したことを示唆しているようです。

所感です。
いつでしたか、まだ大学院生だったと思いますが、知り合いのメッキ会社の社長から、メラミンスポンジのことを教えてもらいました。
当時はまだほとんど世間には知れ渡っておらず、凄いスポンジだと思いました。
それが今や100均でも普通に売られています。
そんなメラミンスポンジをナノ粒子の重合に流用しようというのは、非常に興味深いところです。
広く普及しているということは、それだけ品質も安定しているということであり、実験に使っても再現性も得やすく、合理的と考えます。

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