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雑誌会

2024.08.19

レーザーを思わぬ方向から当てるだけで二酸化テルル微粒子がうまくできた

この『雑誌会の部屋』は、化学系の雑誌を中心に独断と偏見で研究例を選び、不定期でご紹介するコーナーです。

Synthesis of Ultrawide Band Gap TeO2 Nanoparticles by Pulsed
Laser Ablation in Liquids: Top Ablation versus Bottom Ablation
Rajendra Subedi and Grégory Guisbiers
ACS Omega 2024, 9, 25832−25840

超ワイドバンドギャップ物質であるTeO2ナノ粒子をレーザー光照射で得ようしたようです。その際にその照射方向を従来とは逆方向から当てることを試みた研究例になります。

(本文)
https://pubs.acs.org/doi/epdf/10.1021/acsomega.3c10497

電子部品の超小型化が進み中で、超ワイドギャップ半導体の需要も高まっているようです。

(ワイドバンドギャップ半導体とは)
『Band Gapが大きい材料を使うことによって、高い絶縁破壊電界強度が得られます。すなわち、薄い空乏層で大きな耐圧を出すことができるので、ドリフト層を薄くできることと不純物の濃度を上げることができることの相乗効果で、耐圧とドリフト抵抗のトレードオフを飛躍的に向上することが可能となります。』
https://www.shindengen.co.jp/products/semi/column/basic/widebandgap/post_2.html

さらに、『SiCとGaNは事業としての道筋が付いたことから、研究開発の関心はその先のパワー半導体材料に向かっている。例えば、Ga2O3が最有力候補として研究が活発化している。その理由はGa2O3のバンドギャップが4.9eVと広く、絶縁破壊電界が大きいためである。そして、ダイヤモンドやAlNおよびAGO((AlxGa1-x)2O3)を加えた、バンドギャップが4eVを超えるような半導体をウルトラワイドバンドギャップ(UWBG)半導体と呼称して、パワーデバイス応用を目指した開発が本格化しようとしている。』とあります。
(ウルトラワイドバンドギャップ半導体の技術開発動向と今後)
https://gijutsu-keisho.com/technical-commentary/electron-013/

序論において、バルク状態において、α-TiO2は~3.5eV、β-TiO2は~2.26eV、γ-TiO2は~3.41eVのバンドギャップがあると書かれています。
しかしながら、ナノ粒子かすると、バンドギャップは上昇するようです。
そのことについて、『ナノ粒子は,構成原子の数が少ないことによる「体積効果」と構成原子の多くが表面に存在する「表面効果」が絡み合って複雑な物性を示すと同時に新しい機能が発現する.体積効果すなわちナノ粒子のサイズの効果は,量子閉じ込め効果である.電子の閉じ込められる空間のサイズが小さくなることにより,電子の運動エネルギーは上昇する.それに伴い半導体の重要なパラメーターであるバンドギャップエネルギー(最低励起エネルギー)は大きくなる.ナノ粒子の大きさが,励起子ボーア半径程度になるとバンドギャップエネルギーがサイズに大きく依存するようになる。』とあるように、ナノ粒子化すれば、バンドギャップの上昇が期待できるようです。
(半導体 / 金属ナノ粒子ハイブリッド構造における新しい光学現象)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/electrochemistry/79/2/79_2_103/_pdf/-char/en

今回の研究例では、ナノ粒子化することで、バンドギャップの上昇を期待したのではないか?と思われますが、不思議なことに、それについての言及が序論等には見当たらなかったです。ただ、結論として、バンドギャップは~5.3eVあるいは~5.8eVが観測されたので、ナノ粒子化した意義はあったようです。

てなことで、二酸化テルルのナノ粒子を試作して行くことになります。
『(二酸化テルルは)テルル (Te) を空気中で燃焼させて得られ、また天然に鉱石 (テルル華) としてとして存在する (化学辞典,1994)、安定な酸化物であることから、不燃性と判断できる。』とあります。
(GHS分類結果)
https://www.nite.go.jp/chem/ghs/14-mhlw-2070.html

原料のテルルについて今回の研究例では下記を用いたようです。
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/product/aldrich/263303

ここで二酸化テルルの作り方ですが、『高純度二酸化テルルの製造は、純度の高い金属テルルを硝酸溶解し、得られたテルル溶解液を過熱濃縮し、二酸化テルル水和物を析出させ、析出した二酸化テルルを加熱処理し、高純度二酸化テルルを製造という方法が一般的である。』
(高純度二酸化テルルの製造方法 JP2006273606A)
https://patents.google.com/patent/JP2006273606A/ja
とありました。
序論にもいくつか手法が挙げれており、噴霧解析法、超音波化学法、熱水法、蒸発法、生合成法、湿式化学法などがあるようですが、今回の研究例では液中パルスレーザーアブレーション法(pulsed laser ablation in liquids (PLAL))で行ったようです。

まず、レーザーアブレーションについて、『レーザーアブレーションとは一般的に,固体(または 液体)材料にある大きさ(しきい値)以上の強度を持ったレーザー光を照射したとき,材料表面を構成する物質 が原子,分子,イオン,クラスター,電子などの様々な形態で爆発的に放出され材料表面が除去される現象の総称である』とあります。
https://bunseki.jsac.jp/wp-content/uploads/2022/02/p056.pdf

あるいは、『4.1アブレーション加工について 材料表面を高強度パルスレーザー照射したときに現れる特徴的な現象として、アブレーション(ablation)が挙げられる。照射部表面層が瞬間的に分解し、爆発的に蒸散する現象である。』とあります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/60/11/60_11_682/_pdf

更に液中パルスレーザーアブレーション(pulsed laser ablation in liquids、PLAL)
(液中パルスレーザーアブレーション法を用いて物質をナノ粒子化させる研究)
『液中パルスレーザーアブレーション法とは、溶媒に溶けない物質を浮遊させてパルスレーザー光を当てることによりナノ粒子化(~50nm)させる粉砕手法である。これにより、浸透の促進、接触面積の増大、融点の降下、水への分散性向上、細かな色調調節が可能となり、様々な分野に応用利用することができる技術である。また、液中で行うことによって素材のロス率が低減するため、生産量の向上が図れる。』とあります。
https://iicc.skr.u-ryukyu.ac.jp/matching/seeds/technology/258.php

過去の研究例が表1に出ています。
ほとんどがNd:YAGレーザーを光源として用いています。
このNd:YAGレーザーについては、『Nd:YAGレーザーは、波長1.064μmの近赤外光です。連続波、パルス波の両発振が可能で、集光性や安定性に優れています。また、高調波(532nm, 355nm, 266nm)の発振もでき、非常に多用途です。例えば産業分野では、さまざまな金属・非金属の溶接・切断・穴あけ・ライダー・クリーニング・ピーニングなどに使用されています。理科学分野では、チタンサファイア・レーザーのポンピング、非線形光学、ライダーなど、医療分野ではレーザーメス、光凝固、外科手術等、広く利用されています。』とあります。
(固体レーザーとは?その定義と歴史、特徴から応用例までを解説)
https://www.japanlaser.co.jp/column/%e5%9b%ba%e4%bd%93%e3%83%ac%e3%83%bc%e3%82%b6%e3%83%bc%e3%81%a8%e3%81%af%ef%bc%9f%e3%81%9d%e3%81%ae%e5%ae%9a%e7%be%a9%e3%81%a8%e6%ad%b4%e5%8f%b2%e3%80%81%e7%89%b9%e5%be%b4%e3%81%8b%e3%82%89%e5%bf%9c/

今回の研究例では、図1のように行ったようです。
50mlの容器内に5mlのエタノールに浸るようにTeのペレットを入れたようです。そのペレットの直径が~2mmであったことと、その結果として、Teの部分の厚みが~4mmであったことしかわからず、肝心の仕込み量については不明です。
ただ、5mlのエタノールに浸ったとか、全体の厚みが4mmまでだったことを踏まえると、1~2g程度だったのでは?と推測されます。

図1のようにして、レーザーをサンプルに当てます。
今回の研究例ではレーザーを上から当てた場合と、下から当てた場合の二つの方法を試しており、そこが過去の研究例と違うところです。

なお、ペレットの直径が2mmとすれば、厚みが大きいようで、レーザー光線はペレットを貫通しなかったようです。故に、ペレットの表面のみがアブレーションされたようです。言い換えれば、レーザー光線によって、表面を削って行くような形で微粒子化したということでしょうか?ペレットを砕いて、微粒子化が完了するまで、今回の研究例では5分かかったようです。

上記のように、液中パルスレーザーアブレーション法を用いて物質をナノ粒子化させることができるようですが、それと同時にTeは酸化されたものと思われます。上記のように、酸化テルルはテルルをを空気中で燃焼させて得られるとありましたが、レーザーを用いれば、テルルへの照射部表面層が瞬間的に分解し、爆発的に蒸散したと同時に周囲のエタノールと反応して、酸化されたのではないか?と思われますが、詳細は良くわかりません。
手がかりとしては、図4(b)と(d)にはレーザー照射が続くとpHが下がっており、エタノールが分解されて酢酸になっているのでは?と思われますが、よくわかりません。

図2は得られたTeO2にエタノール分散液に650nmのレーザーポインターの光を当てた様子です。
レーザー光線を上から当てた場合も下から当てた場合もチンダル現象が見られ、首尾良く微粒子は得られたようです。

図3は得られた粒子の粒径を検証しています。
図3(a)は上から当てた場合の動的光散乱法による粒径分布の測定結果、図3(b)は同じく下から当てた場合になります。粒径は下から当てた方が小さかったようです。
動的光散乱法については、
https://www.malvernpanalytical.com/jp/products/technology/light-scattering/dynamic-light-scattering

図3(b)は上から当てた場合、図3(e)は下から当てた場合の微粒子のSEM写真です。
このSEM画像の結果からImageJというツールを用いて粒径分布を描いたものが、図3( c) (上から当てた場合)、図3(f)(下から当てた場合)になります。
ImageJについては、
(画像解析の手順 ~ImageJのコマンド紹介~)
https://www.mitani-visual.jp/mivlog/imageprocessing/image-j.php

まず、動的光散乱法の結果とImageJの結果はよく一致したことがわかります。
また、粒径は上から当てた場合より、下から当てた場合の方が小さかったようです。
これに関して、三つの考察を行っています。

第一の理由は、容器の下から照射する場合、プラズマプルームが容器の上から照射する場合と違って自由に膨張することができず、その結果、ナノ粒子の核生成と成長が抑制されたようです。
なお、プラズマプルームについては、『レーザーを対象物に照射すると、対象物表面が溶融、蒸発するとともに電離が起こる。このとき、レーザー照射部から噴出される蒸気をプルームと呼び、電離している場合にはプラズマと呼ぶ。特にレーザー照射により発生するものをレーザー誘起プラズマ・プルームと呼ぶ。』とあります。
https://rdreview.jaea.go.jp/review_jp/kaisetsu/868.html

第二の理由は、下からの場合、生成したナノ粒子がバルク状の未照射のTeとガラス容器との間に捕捉されることで、ナノ粒子はレーザービームによって更に光破壊されることになったみたいです。

第三の理由は、容器と照射ターゲット(Te)の間の液体(エタノール)の厚みが、容器の上から照射する場合の照射ターゲット上部の液体の厚みよりはるかに薄いことだからみたいです。液体中をレーザー光が進むと減衰するってことなんでしょうか?

またゼータ電位に関して、本文には上からの場合、34±1mV、下からの場合は50±2mVだったようです。本文には-30~+30mVの場合は不安定な粒子とありますが、今回の場合、範囲外となり、どちらも安定なようです。ただ、上記より、『微粒子の場合、ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなり粒子の安定性は高くなる。』ということでしたので、上からより下からの方が粒子は安定していたようです。

ゼータ電位(ζ-potential)については、
『液体中に分散している粒子の多くは、プラスまたはマイナスに帯電しています。電気的に中性を保とうとして粒子表面の液体中には、粒子とは逆の符号を持つイオンが集まってきます。』『液体中に分散された粒子は、多くの場合に荷電を持っています。そして、粒子の分散状態の安定性は、しばしば荷電状態によって、左右されます。この場合、何をもって粒子の荷電状態の指標としたらよいでしょうか。それに対する回答として、定義されたのがゼータ電位です。』『粒子から充分に離れて電気的に中性である領域の電位をゼロと定義します。<ゼータ電位(zeta-potential)>は、このゼロ点を基準として測った場合の、滑り面の電位と定義されています。微粒子の場合、ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなり粒子の安定性は高くなります。逆に、ゼータ電位がゼロに近くなると、粒子は凝集しやすくなります。そこで、ゼータ電位は分散された粒子の分散安定性の指標として用いられています。』
https://www.otsukael.jp/weblearn/chapter/learnid/69/page/1

図4はレーザー照射をした時間と温度あるいはpHの動きを表した図です。
図4(a)と(c)に見られますように、上からの場合より下からの場合の方が温度上昇幅が大きかったようです。そして、図4(b)と(d)に見られますように、pHの動きも下からの方が大きかったようです。過去の研究例によると、温度が高いほど、pHは小さくなるようです。

ただ、この結果から気になることは、pHの動きが検討した範囲内では動きが止まっていないことです。
上記のように、pHの減少はエタノールの分解によるものと考えましたが、pHが下がり続けているということは、反応が続いている=Teの酸化は終了していないということになります。あるいは、温度が高い方がpHは小さくなるとのことですが、これは温度が高い方が反応が進むと考えられます。
以上のことから、本当にレーザー照射を5分で終了させて良かったのか?は疑問です。

図5は得られたナノ粒子の構造解析を行っています。
図5(a)(上から)と(c)(下から)はラマン分光による結果で、α-TiO2に由来するピークは検出され、γ-TeO2に由来するピークはなかったようです。なお、β-TeO2については記述がなかったので不明です。一方、図5(b)(上から)、図5(d)(下から)おXRDの結果になります。
上からの場合、α-TeO2=95.3%、γ-TeO2=4.7%、下からの場合もα-TeO2=97.5%、γ-TeO2
=2.5%とほぼα-TeO2だったようです。
ここでも、β-TeO2に関する記述はなく、β-TeO2は生成していなかったようです。

なお、一般にXRDは薄膜の分析に適していると言われていますが、ただ、粒径が~40nmであることを踏まえると、全てを分析できていると思われます。とすれば、全てがTeO2化していることになりますが、図4(b)と(d)で見たようにpHが動き続けていることは更に疑問となります。
(XRDにおけるX線の侵入深さ)
https://home.hirosaki-u.ac.jp/yaneura/418/

図6は得られたナノ粒子をEDXで元素分析した結果です。
EDXについては、
([SEM-EDX]エネルギー分散型X線分光法(SEM))
https://www.mst.or.jp/method/tabid/142/Default.aspx

EDX測定の結果、上からの場合も下からの場合も、粒子を横切って調べた範囲全域において、テルルと酸素が検出されたようです。

更にEDXで粒子の全体像を見た結果が図7に描かれています。
上からの場合、下からの場合のどちらにおいても、ほぼ均一にテルルと酸素が検出された一方で、炭素(エタノール由来?)によるコンタミも検出されなかったようです。

図8は得られたナノ粒子のコロイドを紫外可視分光光度計で測定した結果になります。
上からの場合、ピークは234nm、下からの場合は213nmと下からの方がピーク波長は短くなったようです。
粒径が大きくなるほど、紫外可視分光光度計で測定したピーク波長も長くなるはずです。
金ナノ粒子の場合でも、『吸収ピーク波長は、金ナノ粒子の粒径の大きさと共に増大します。』とあります。
(3. 金ナノ粒子の特性評価方法)
https://www.cosmobio.co.jp/support/technology/gold-nanoparticles-technical-note/gold-nanoparticle-characterization-ctd.asp

ここでも下からレーザー光線を当てた方が粒径の小さな粒子が得られたことがわかったようです。

最後に、Taucプロット法で、得られたナノ粒子のバンドギャップを算出しています。
Tauc プロットについては、『Taucプロットはバンドギャップを求める場合に広く用いられている手法です。』
(化合物半導体のバンドギャップ測定ー拡散反射スペクトルからバンドギャップを求めるー)
https://www.an.shimadzu.co.jp/sites/an.shimadzu.co.jp/files/pim/pim_document_file/an_jp/applications/application_note/19591/an_a428.pdf

その結果、図8(c)(上から)の場合、バンドギャップは~5.3eV、図8(d)(下から)の場合バンドギャップは~5.8eVとなり、ウルトラワイドバンドギャップ半導体の領域となったようです。しかも、下からの方がバンドギャップが大きかったようで、粒径が小さくなったことが影響したようです。
なお、図8(b)と(c)ですが、脚注および本文と整合していないようです。図のbとcあるいは本文と脚注のbとcを入れ替えれば良いことになりますので、初歩的なミスでしょう。

所感です。
これまでバンドギャップが大きくなる=電気伝導性が悪くなるということで、あまり良いことではないのでは?と思っておりました。しかしながら、そもそも電気の抵抗部品には様々な抵抗値があるように、半導体にもいろいろバリエーションが必要であること、更にはミクロ化するには電気伝導性が低い方が耐えられるということも今回の研究例のおかげでわかりました。
二酸化テルル、硝酸を使ってはやはりやりやくないので、今回の研究例のように、エタノールに漬けるだけで行えるのは非常に良いのでは?と思います。
また、レーザーを下から当てようとしたのは興味深いところです。
エタノールの層はレーザーを減衰させるという考察がありましたが、ガラス容器は減衰させないということでしょうか?普通に考えればガラスがあれば光は減衰してしまうように思ってしまいがちですが、そこを敢えてやったところに今回の研究例の非常に大きな意味合いがあるところで、思い込みは非常に良くないことが、改めて確認できたと言えます。

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