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2025.06.24

ポリスチレンを黒くすればお天道様が分解してくれる

黒い物に光を当てると発熱する現象を利用して、ポリスチレンの重合と分解を試みたお話です。

Recycling of Post-Consumer Waste Polystyrene Using Commercial
Plastic Additives

Sewon Oh,§ Hanning Jiang,§ Liat H. Kugelmass, and Erin E. Stache*

ACS Cent. Sci. 2025, 11, 57−65

(本文)
https://pubs.acs.org/doi/epdf/10.1021/acscentsci.4c01317?ref=article_openPDF


(補足情報)
https://pubs.acs.org/doi/suppl/10.1021/acscentsci.4c01317/suppl_file/oc4c01317_si_001.pdf

https://pubs.acs.org/doi/suppl/10.1021/acscentsci.4c01317/suppl_file/oc4c01317_si_002.mp4

https://pubs.acs.org/doi/suppl/10.1021/acscentsci.4c01317/suppl_file/oc4c01317_si_003.mp4

カーボンを添加することで、光⇒熱変換(Photothermal)現象を起こします。
ポリスチレンは熱だけでも分解するようですが、光⇒熱変換を利用することでメリットがあるようです。その概念が図1Aに描かれています。

熱分解のみの場合は、
(1)熱伝導率係数(κ)は一定⇒熱伝導率は一定
(2)熱伝導率が大きいので、バルクの温度が高い⇒側面の反応性に繋がる

一方、光⇒熱変換の場合は、
(1)バルクの温度が低い
(2)カーボンブラック(粒子)の近傍では熱伝導率が大きい。
(3)時空間制御ができる?

要は熱効率が良くなり、制御はしやすいということでしょうか?

図1Bでは熱分解の様子が化学構造面から示されています。
300~350℃で中間体まで分解し、更に400℃以上でモノマーに分解しようというものだったようです。

図1Cでは、カーボンブラックを含むプラスチック(ここではポリスチレン?)の現状が示されています。
既にカーボンブラックは様々なポリスチレン製品に含まれ応用されているようです。
しかしながら、黒いプラスチックはリサイクルできない、分解が難しい、プラスチックを混合すると複雑化する、といった問題点があるようです。

そこで、図1Dに示されているように、今回の研究例では、黒いプラスチック、あるいはたとい透明でも黒いプラスチックスと混ぜることで、いずれの場合も1時間までにモノマー(スチレン)に分解でき、収率が80%ぐらい、添加剤なし、簡単なセットアップで行える方法を見出したようです。

結果です。
添加剤をカーボンのみとして、まずはスチレンからポリスチレンへ重合させる検討を行っています。重合は乳化重合法で行ったようです。
乳化重合については『乳化重合は、水に難溶性であるモノマーを、撹拌下で水中に乳化分散してラジカル重合する方法のことである。高重合度のポリマーが得られやすい、反応温度を制御しやすい、ミセルを反応場としているため反応が速いといった特長がある。』とあります。
(乳化重合用乳化剤)
https://www.sanyo-chemical.co.jp/magazine/archives/137

カーボンブラック(CB)は効率の良い光熱剤なので、660nmの低強度LEDが重合のためのラジカル開始剤を熱的に活性化させるのでは?との仮説を立てたようです。なお、660nmのLEDは『赤色LED』とあり、補足情報の図S1でも赤い光が確認できます。
https://akizukidenshi.com/catalog/g/g104780/

てなことで、660nmのLEDを用い、0.5~5wt%のカーボンブラックの存在下で、全ての場合において、首尾よくスチレンから高分子量のポリスチレン(PS)が重合できたようです。(図2A、項目1~4)。なお、カーボンブラックを添加しないPSは(光を使わない)熱だけによる乳化重合によって合成したようです。(図2A、項目5)。ポリマーの沈殿物をろ過した上で、すべてのケースで80%を超える収率のPS-CB材料を得たようです。カーボンブラックはポリマー粒子とともに定量的に回収され、0.6~5.4wt%のカーボンブラック(PS-CBxと表記、xはwt%、図2A)を含む重合物が得られたようです。
なお、重合の流れと様子は補足情報の図S2に出ています。

その重合物(PS-CBサンプル)を得た後、それらを使って光熱解重合の検討に移ったようです。ここで、解重合を行うには、天井温度(Tc)が重要となるようです。スチレンの天井温度は395℃です。この天井温度については『付加反応とその逆反応の速度が一致する温度を「天井温度」と言います。天井温度以上では成長反応は進行せず、解重合反応が進んでいきます。』とあります。
(天井温度とは)
https://chem-labo.com/polymer-synthetic-chemistry/ceiling-temperature/

てなことで、ポリスチレンの場合はスチレンの天井温度の395℃を超える必要があります。ただ、ここではカーボンブラックの局所温度が395℃を越えればあとは連鎖的に分解が進むと考えたようです。
そこで、6000Kの高輝度白色LED光(100W、補足情報のS39ページ)を使ったようです。
6000Kについては『ライトはケルビン(K)数によって、光の色合いが異なります。3000〜4000Kが黄色や暖色、6000K前後が白色、8000K以上が青色です。』とあります。
https://hidya.jp/blog/car-light-color/

図2Bは解重合の結果が示されています。主生成物はスチレンモノマーで、ダイマー、トリマー、トルエン、α-メチルスチレン(AMS)も検出されたようです。カーボンブラックのwt%が増加するにつれて生成されるスチレンモノマーの量も増加し、5wt%の担持でスチレンモノマーの量は最大57%に達したようです。(図2B、Depolymerizationnの一番右の帯グラフ)。カーボンブラックのない純粋なPS(図2B、Depolymerizationnの一番左の帯グラフ)は、光を当てただけでは解重合を起こさなかったので、光⇒熱変換が有効に働いたことがわかったようです。注目すべきは、実施された温度が、ポリスチレンの分解温度(Td、300~370℃)をはるかに下回る150℃を超えなかったことのようです。(補足情報、図S119)。
なお、下記はポリスチレンの熱分解に関する過去の研究例についてです。
(ポリスチレンの熱分解)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nikkashi1972/1975/7/1975_7_1241/_pdf/-char/ja

分解のメカニズムをGPCを使って分子量を測定して調べたようです。
まず、実験で得た低分子量ポリスチレン (Mn = 18 kDa)を用いて、図3AはTEMPO重合禁止剤があった場合、図3BはTEMPOがなかった場合の結果です。どちらもほぼ同じような結果だったようで、スチレンモノマーが形成されたにもかかわらず、反応時間中、残留ポリスチレンの分子量は減少なかったようです。 (図 3A、B)
なお、TEMPOについては、『TEMPOは重合禁止剤として知られている化合物で、安定なラジカルとしては非常に有名な化合物です。TEMPOは開始剤とスチレンが反応して生成する成長ラジカルと反応して重合反応を停止させます。』とあります。
(リビングラジカル重合の基礎)
https://chem-labo.com/polymer-synthetic-chemistry/living-radical-polymerization/

あるいは、『TEMPO(2, 2, 6, 6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル)は室温で安定なフリーラジカルを持つ化合物であり、非常に高いラジカル捕捉能力を有することが知られています。』とあります。
(TEMPO系重合禁止剤)
https://seiko-chem.co.jp/development/tempo%E7%B3%BB%E9%87%8D%E5%90%88%E7%A6%81%E6%AD%A2%E5%89%A4/

市販のポリスチレン (Mn = 84 kDa)の場合は、解重合特性を示したものの、残留ポリマーの分子量、最初は減少し、その後は一定のままで、スチレン収率の方は増加したようです。 (図 3C、D)
また、スチレンの二量体と三量体はスチレンと同時に形成されたため、スチレンモノマーのオリゴマー化ではなく、ポリスチレンから形成されたと推測されるようです。 (図 3E)
更に補足情報の図140に示されているように、二量体と三量体の混合物を加熱し続けたところ、三量体の量は減少し、α-メチルスチレン (AMS)、スチレン、トルエンの量が増加したようです。
そして、分子量と光⇒熱、解重合効率の関係を調べるために、さまざまな分子量のポリスチレンの脱重合を調べたようです。 (Mn = 0.5〜196 kDa、図 3F)。分子量の大きなポリマーは小さなポリマーよりも効率的に脱重合したようです 。(図 3C のわずかに歪んだ GPC トレースによっても裏付けられているようです)。これは、大きなポリスチレンの C−C 結合が弱いことと、脱重合によるエントロピー増加が増加することによると考察しています。もっとも、Mn が 2.7 kDa を超えるポリスチレンはすべて、37〜50% のスチレン収率で脱重合し、このシステムが幅広い分子量に適用可能であることがわかったようです。
以上より、図3Gでメカニズムを考察しています。
光⇒熱変換解重合は、ポリスチレン骨格のランダムな鎖切断と、それに続くスチレンモノマーへの完全な解重合(鎖末端の解重合)により起こると考えたようです。この仮説は、TEMPO末端とH末端のポリスチレンサンプルの解重合挙動がほぼ同じであることからも支持されるようです。また、二量体および三量体は、解重合と同時に分子内水素原子移動(HAT)現象から生じるようです。時間の経過とともに、三量体は、さらにスチレン、トルエン、AMSへと切断されたようです。

続いて、スチレンを含む共重合体の検討を行ったようです。スチレンとアクリル酸メチル(PS-co-PMA-CB5.3)、アクリロニトリル(PS-co-PAN-CB5.3)、イソプレン(PS-co-PICB5.1)を光熱エマルジョン合成で共重合したようです。(図4A)また、光⇒熱変換バルク重合法を用いて、ポリブタジエン(PB)上にスチレンをグラフト共重合させ、ハイインパクトポリスチレン(HIPS-CB6.2)を合成したようです。(図4B)。次に、得られたこれらの共重合体について、蒸留法を用いて1時間光⇒熱変換解重合を試みたようです。(図4)
その結果、妥当な量のスチレンと、アクリル酸メチル、アクリロニトリル、イソプレンなどの少量のコモノマーが検出されたようです。もともと、共重合体の解重合はより困難であると予想されていたようです。まず、これらのコモノマーは分解上限温度が高いので、コポリマーは純粋なポリスチレンよりも解重合しにくいと考えられます。更に、これらのコポリマーは副反応を起こしやすく、特にPS-co-PI-CB5.1(スチレン71wt%)では、他のコポリマーにはない余分なアルカン鎖やアルケン鎖が骨格にあるので、ヘンな反応が起こることは十分予想できたようです。なお、PS-co-PI-CB5.1を水素化した後、光⇒熱変換解重合したところ、20%のスチレン収率を得たようです。このように共重合体の水素添加がスチレンの収率に影響しなかったことから、二重結合は必ずしも光熱解重合システムの効率を阻害しないことがわかったようです。別のPS-co-PI-CB5.2(スチレン30 wt%)も合成し、光⇒熱変換解重合後のスチレン収率は14%であったようです。(補足情報の 表S23)このように、骨格上の炭化水素濃度が高くなると、スチレン収率がさらに低下するようです。おそらく、余分な炭素がスチレンの形成を妨げる副反応を引き起こすためであろうと考察しています。もっとも、全体的な結果は、スチレン共重合体を分解するための有望な手段として光⇒熱変換解重合法には十分可能性があることがわかったようです。

そして、市販のポリスチレンサンプルに対して評価を行ったようです。発泡ポリスチレン(PSフォーム)、食品容器、コーヒーカップの蓋など、消費者使用後の黒色ポリスチレンサンプルを、カーボンブラックや他の金属触媒を追加することなく、解重合実験に適用したようです。その結果、8種類の黒色ポリスチレンプラスチックは、最大53%の収率でスチレンモノマーに分解されたようです。(図5A)。検討したサンプルは、カーボンブラックやその他の添加剤の量がまちまちであるにもかかわらず、スチレン収率は30%以上であった。さらに、白色または透明のポリスチレン試料をカーボンブラックで溶融処理して5 wt%のカーボンブラックフィルムを得たようです。(補足情報の図S114)図2Aに示されていたPS-CB混合物の光⇒熱変換解重合と同程度のスチレン収率(最大54%)となったようです。(補足情報の表S26)。これらの結果は、カーボンブラックを非黒色プラスチック試料に使用後に添加しても、効率的な解重合ができることがわかったようです。さらに、この材料の3gおよび6gスケールで解重合を行い、最大44%のスチレンが回収できたようです。(補足情報の表S31)。

更に、より実用的な状況を想定して、様々な食品由来物質(20 wt%)の存在下で黒色PSフォームの光⇒熱変換解重合を行ったようです。その結果、モノマー回収率は、汚染されていないサンプルとほとんど変わらなかったようです。(図5B)。カノーラ油と醤油は、スチレン収率を46%までわずかに低下させたようです。(補足情報の Table S28参照)。しかも、ポリマー骨格上のラジカルを消光できるラジカル捕捉剤(ビタミンCまたはアスコルビン酸)があるにもかかわらず、オレンジ果汁の存在下でもスチレン回収率は37%であったようです。(補足情報の表S28-S30)

更に、フレネルレンズを用い、真空下で市販のPSに集光した太陽光を照射して分解するか否か?を調べたようです。
フレネルレンズについては、
https://www.ushio.co.jp/jp/technology/glossary/glossary_ha/fresnel_lens.html

黒色のPS発泡体サンプルは僅か5分後に完全に解重合し、80%のスチレンが得られたようです。一方、純粋な市販PS粉末は対照群として無傷のままだったようです。(図5C、補足情報の表S32、Entry 4)。やはり太陽光の強度が大きいことが良くわかったようです。

さて、黒色のプラスチックはリサイクルを複雑化して来たようです。なぜなら、黒色以外のプラスチックに色が移ってしまうのか、黒色だけを分離する必要があったからのようです。しかしながら、今回の研究例では、黒色のプラスチックを分離することなく、新たな混合プラスチック廃棄物の手法が見いだせたようです。最後に混合着色後市販のポリスチレンの光熱解重合を実証したようです。(図5D)。
やったことは、黒い色のプラスチックスとその他の色のプラスチックスを用意し、黒い色のプラスチックスの割合との関係を調べたようです。なので、図5Dの横軸はカーボンの含有率ではなく、黒色プラスチックスの割合のようです。
まず、黒い色のプラスチックスの割合が10wt%という低い場合でも、LED照射下で40%以上のスチレンを得ることができ、黒色プラスチックの添加量が多いほどスチレンの収率は増加したようです。また、赤色カップ、黄色発泡体、透明カップ、黒色発泡体の破片を含む多色の使用済みPS混合物でも44%のスチレンを得たようです。(補足情報の表S35)。最終的に、混合着色された使用済み廃棄物PSサンプルに集光太陽光照射を行ったところ、わずか5分間で10~75 wt%の黒色プラスチックの存在で67~72%のスチレン回収率を達成できたようです。(図5D、補足情報の表S33)。

所感です。
カーボンを添加して光を当てるだけで、顕著な現象が起こることは興味深いです。
学部の時の卒業テーマはACカロリメトリー法によるパラフィンの融点の研究でした。
ACカロリメトリー法について、『ACカロリメトリーとは,試料を交流的に加熱し試料に生じる温度振動(交流温度)を測定して熱容量を計測する方法である。』とあります。
(ACカロリメトリー)
https://www.netsu.org/JSCTANetsuSokutei/pdfs/29/29-1-5.pdf

ここで交流温度とは、熱をパルス状にON-OFFを繰り返して与える方法になります。実際には、
(1)サンプルを準備。
(2)サンプルにスプレー式のカーボンを塗布。
(3)円盤に穴の開いたものを準備。
(4)サンプルと光源の間に穴の開いた円盤をセット。
(5)円盤を回転させる。
(6)光源を点灯。
(7)光がパルス的にサンプルに当たる。
(8)光はカーボンによって熱になり、パルス状に加熱される。
といった具合です。

それにしても、ポリスチレンにカーボンを添加することで、これほどまでに解重合が効率よくできることは驚きました。
しかも、太陽光を当てると、分解が一段と速く分解が促進されることもわかりました。しからば、屋外で使うような黒いプラスチック、車の部品とかも普通に見かけますが、そんなところに使って大丈夫なのだろうか?とも思いましたが…

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