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雑誌会

2025.12.16

スケールアップできるフローケミストリー?

電解合成と呼ばれる合成の装置を工夫したお話です。

Scaling Organic Electrosynthesis: The Crucial Interplay between
Mechanism and Mass Transport

Zachary J. Oliver, Dylan J. Abrams, Luana Cardinale, Chih-Jung Chen, Gregory L. Beutner, Seb Caille,
Benjamin Cohen, Lin Deng, Moiz Diwan, Michael O. Frederick, Kaid Harper, Joel M. Hawkins,
Dan Lehnherr, Christine Lucky, Alex Meyer, Seonmyeong Noh, Diego Nunez, Kyle Quasdorf,
Jaykumar Teli, Shannon S. Stahl,* and Marcel Schreier*

ACS Cent. Sci. 2025, 11, 528−538

(本文)
https://pubs.acs.org/doi/epdf/10.1021/acscentsci.4c01733?ref=article_openPDF

(補足情報)
https://pubs.acs.org/doi/suppl/10.1021/acscentsci.4c01733/suppl_file/oc4c01733_si_001.pdf

まず、電解合成について、『有機電解合成は、電気エネルギーを駆動力とし有機化合物を合成する手法です。反応試薬の使用を低減し、効率的な合成ルート開拓の可能性を有することから、近年、注目を集めています。』とあります。
(有機電解合成プラットフォーム SynLectro)
https://www.youtube.com/watch?v=cyARDZweMt4

また、『酸化還元反応を、炭素が入った物質(有機)で行うのが有機電解合成だ。通常は環境負荷の高い試薬や熱が必要な反応でも、電解では様子が変わる。「化学試薬で起こらない反応を実現したり、副反応を抑えたりすることが可能になる」』とあります。
(「電解合成」世界的に大流行 東工大、“電気要らず”の反応研究)
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00718099

電解合成には主に二つのスタイルがあるようで、それらが図1aに描かれているように、バッチセル式と並行電極式です。

今回、モデル反応を3つ選び、それらが図1cに描かれています。
反応1=アルコールの酸化
反応2=ニッケルを触媒とする求電子カップリング
反応3=スルホンアミドカップリング

反応1と2はバッチセルで、反応3は並行電極で液を循環させながら、まずは予備実験を行ったようです。

反応1の予備実験では、電極間の電圧を2Vにした場合、収率は85%だったようです。
ところが、電圧を3Vに上げたところ、収率は56%に落ちるし、副生成物であるアセトンの生成量も多くなったようです。(図2b)
反応2の予備実験では、電極間の電圧を-1Vにした場合の収率は88%だったようですが、電極間の電圧を-2Vにした場合は反応速度は速くなったものの、選択性が低下し、副生成物の生成量も多くなったようです。(図3b)

反応3の予備実験ではHClの添加量が反応に影響するらしいです。図4bにありますように、HClの量を7.5mM、75mM、187.5mMと変化させた場合、75mMが最も良い結果となったようです。

さて、ここからが、今回の研究例ののメインです。
容器や方式の改良を図1bにあるような2つの方式として考案したようです。
図1bの左がCapillary gap方式で、CG法と称されています。
いずれの場合も、装置には入口と出口があり、反応液は装置内を通過するようで、その間に反応が進むようです。
狭い電極間に液を流して効率良く反応させる方法のようです。
一方、図1b右はRotating cylinder 方式でRC法と称されています。
こちらはマイナス電極を回転させることで効率良く反応させる方法のようです。

実際の装置の写真や化学工学的なことについては。図5に示されています。
また、レイノルズ数という数値について言及されています。
レイノルズ数は流れる容器の形状によって異なり、円管内の場合は臨界レイノルズ数が2300なので、レイノルズ数が<2300の時は層流、>2300の時は乱流になるようです。
https://www.youtube.com/watch?v=BE8qZVJOSvU

ここではCGの場合の臨界レイノルズ数は2000で、レイノルズ数はいずれも<2000となっているので、層流となります。一方、RCの場合は、臨界レイノルズ数は1250でレイノルズはいずれも>1250となっているので、乱流となったようです。
このあたりについては、コンピューターでシミュレーションした結果の図が、補足情報の図S1に描かれており、わかりやすいです。

結果が図6に描かれています。
図6左上に描かれていますように、反応液は反応容器を通過させながら循環させたようです。
反応1では、収率=CG法/RC法=76%/89%とRC法の方が良好だったようです。
反応2でも、収率=CG法/RC法=86%/97%とRC法の方が良好だったようです。
反応3では、収率=CG法/RC法=74%/33%とCG法の方が良好だったようです。
以上より、反応1と2はRC法、反応3はCG方が適していることがわかったようです。

更に図7上の図に示されているように、反応液を一方通行とする試みも行ったようです。
図7に結果が示されている通り、全ての反応において、改善が見られ、例えば反応2では、過去例の16倍も効率が上昇したようです。

所感です。
mM単位で出て来るので、今回の検討はかなり小規模であると言えます。
ただ、電極を使った合成反応は既に工業化されており、実績もあるようです。
(化学工業で活躍する有機電解合成)
https://www.chem-station.com/blog/2020/07/es.html

今回の研究例では、反応容器を高効率化して、しかもフローケミストリーが適用できるようにしたところには大変興味を持ちました。
これまでフローケミストリーはスケールアップが大きな課題でした。今のところ、一つ一つの装置は大きくせず、極めて小規模なものをいくつも同時に動かすナンバリングアップ式で対応するのが一般的でした。ところが、今回の研究例は装置や流路などがそのままスケールアップできることが期待できそうです。

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