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2026.02.15

リグニンでホットメルト接着剤

サトウキビから採取したリグニンを用いて、ホットメルト式のウレタン系接着剤を試作したお話です。

Synthesis, Characterization, and Performance Evaluation of Highly
Reactive and Sustainable Hot-Melt Polyurethane Adhesives Derived
from Lignin-Based Polyols

Shazia Naheed,* Sadia Afsheen, Muhammad Zuber, Mahwish Salman, and Tanzeela Khalid

ACS Omega 2025, 10, 47857−47866

(本文)
https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acsomega.5c00473?ref=article_openPDF

まず、リグニンについてです。下記にありますように、リグニンは現状、廃棄されている物質であり、その有効利用が盛んに研究されています。
『樹木中にはおよそ4割セルロースが含まれています。これが紙として使われていることはご存知のことと思います。残りの約半分がリグニン、その残りはヘミセルロースという物質からできています。リグニンは樹木中ではセルロースでできた細胞と細胞をくっつける接着剤の役割を担っています。リグニンの分子構造は非常に複雑ですが、多数のいわゆる亀の甲と呼ばれる6角形の芳香環から構成されています。芳香環は他の分子にくらべ化学的に安定な構造であるため、高耐熱性や力学強度が非常に高い材料の元になる成分です。これを活用すれば単に石油代替材料となるだけではなく、高い付加価値を持った樹脂ができます。ところが、これまで製紙産業では木からセルロースを抽出する際に、リグニンは不要物として廃棄されていたのです。製紙の際に副生するリグニンは、黒液とも呼ばれ、真っ黒なドロドロしたもので、そのままでは溶解性が低いとか加工性が悪いなどの問題があり、ある意味やっかいものであったわけです。共同研究先の森林総合研究所では、木にポリエチレングリコールを加え、リグニンを抽出することによって扱いやすい形のリグニンを作る技術を開発しました。そこで我々の技術でリグニンから様々な優れた特性を持つ石油代替樹脂を開発するということになったのです。』
(東京工科大学、石油に取って代わる新素材リグニンとは?)
https://www.teu.ac.jp/information/2023.html?id=147

今回の研究例では、サトウキビのバガスからリグニンを得ています。
サトウキビバガスについては、『バガスとは、サトウキビを砂糖に製造する工程で発生する、茎や葉などの絞りカス(残さ)のことです。製糖工場から排出されるバガスは、サトウキビ全体の約25~30%を占めます。』とあります。
(サトウキビの「バガス」って?7つの活用方法・事例も解説!)
https://siamreiwa.com/news/article_44_f

実際には下記のような作業だったようです。
(1)原料のバガスを砕く。(砕いた前後の大きさは不明)
(2)(おそらく)水かお湯に漬ける。
(3)ろ過して不要な液状成分である溶解性タンニン、樹脂、色素などを取り除く。
(4)長さが1~2cmになるように砕く。
(5)室温で3日間風乾する。
(6)70~80℃のお湯に2時間漬ける。
(7)25℃まで冷却。
(8)80~90℃で遠心分離。
(9)2~4%濃度の水酸化ナトリウム水溶液中、140~160℃で炊き、パルプを分離。
(10)脱イオン水で洗浄。
(11)黒い液体になる。
(12)濃硫酸で処理してpH<2とする。
(13)1~2時間撹拌して、リグニンを完全に沈殿させる。
(14)リグニンの部分だけを取り出す。
(15)リグニン/NaOH/HCHO=1/1/2.4(モル比)(水の量は不明)で混合し、ヒドロキシメチル化を実施。

ここでのヒドロキシメチル化は図1の一番上の左、ligninと書かれているHO-R-OHの部分をリグニン本体に導入することと思われます。リグニンに水酸基が二つついたユニットを導入したようです。

得られたリグニン誘導体(単にLignin(リグニン)と表現されている)、ポリエチレングリコール(PEG)、ナノサイズのSiO2、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、1,4-ブテンジオールを表1のように配合してポリウレタン型ホットメルトタイプの接着剤を試作したようです。

反応の流れは図1に示される通りです。

反応が進んだことの確認はFT-IRで確認したようです。図2に結果が出ています。いたからMDI、リグニン、図1の中間体(a) NCO terminated prepolymer、1,4-ブタンジオール、最終生成物の順に並んでおり、水酸基に基づくピークが縮小されたことで反応は首尾良く進んだようです。

図3は表1に基づいて作製した最終生成物のFT-IRの結果です。リグニンの配合量に関係なく、NH基、CH基、CO基は確認でき、必要な構造体は得られたとしています。

続いて、SEMやXRDで表面観察を行ったようです。
図4はSEM観察の結果で、リグニンを含まないサンプル(HMPUA-1)はより滑らかな表面を示したのに対して、リグニンを含むサンプル(HMPUA-2およびHMPUA-3)はより粗い質感だったようです。この粗さは、リグニン中の水酸基によって引き起こされる相分離によって生じ、接着特性を向上させると考察しています。また、HMPUA-4およびHMPUA-5に見られるように、ナノSiO2を添加すると、強化粒子構造が導入され、表面粗さがさらに増大したようです。
一方、XRDについての結果は図5に描かれています。調製した全てのサンプルで約2θ = 20.85°と23.9°のピークを示したようです。23.9°で急激に増加するピークはPU/リグニン/SiO2ハイブリッドを表しているみたいです。ハイブリッドピークは典型的な半結晶性または非晶質材料のようです。HMPUA-1とHMPUA-2に鋭いピークが見られないことは、それぞれリグニンやSiO2、あるいはSiO2が存在しないことを示しています。さらに、結果は、リグニンとSiO2の添加がポリウレタンマトリックスの結晶性にはさほど影響を与えないことがわかったようです。

続いてDSCで熱分析をしています。結果が図6に描かれています。グラフで向かって下から上に行くと、リグニンの量=水酸基の量が増加し、ガラス転移温度は低下したようです。リグニンはポリマー鎖の相互作用を阻害することでガラス転移温度(Tg)を低下させるものの、その結晶性は冷結晶化を促進し、融点(Tm)ピークのシフトとブロード化をもたらしたようです。HMPUA-1では、リグニンとナノシリカが存在しないため、他のサンプルと比較して、明確に区別できるTgを示さなかったようです。これは、ベースポリマーマトリックスの均質性と高い柔軟性により、Tgシグナルが弱くなるためと考察しています。一方、リグニンの導入は、その芳香族性と架橋性によりポリマーマトリックスの剛性を高め、より明確なTgを示すことに繋がったと考察しています。一方、ナノシリカはポリマー鎖との強力な界面相互作用により、粘度を増加させ、ポリマー鎖の可動性を制限し、Tgを上昇させたようです。

TGAで熱分解性を調べたようです。見たところ、全てのサンプルはほぼ似たような結果おなり、22.89℃~185.76℃の温度範囲はウレタン結合の切断に関連し、小さな揮発性物質の放出が起こったようです。185.67℃~245.98℃の範囲では様々なソフトセグメントの損傷が起こったようです。これは化学構造、分子量、リグニン含有量に関係するようです。残りの245.98℃~400℃の温度範囲は、炭素-炭素結合や様々な官能基を含む分解がさらに最大になったようです。

表2には粘度測定結果と、熱で軟化する温度の測定結果が書かれています。
粘度は25℃時で、リグニンの配合量が増えると、粘度も高くなったようです。おそらくリグには極性が高いので、水素結合が促進されたのでは?と思いますが…
軟化点は各サンプル間でもあまり差はなく、リグニンの添加により、悪影響はなかったようです。

表3は各サンプルを用いて120℃で加熱して接着試験用の試験片を作製し、評価した結果のようです。HMPUA-Cは市販のウレタン型接着剤を用いた場合です。
まず、いずれのサンプルも、加熱時間が長くなるほど接着力が上がったようです。
また、リグニンおよびナノシリカを配合することで、接着力は上昇し、市販品にも匹敵するくらいの接着力が得られたようです。

最後に抗菌性を調べています。
リグニンが天然由来なので、いわゆる『腐ってしまうのでは?』という懸念からと思われます。
まず抗菌性の評価ですが、『ディスク拡散法』と呼ばれる試験方法が参考となります。
『ディスク拡散法とは、薬剤含有ディスク(薬剤を染み込ませた乾燥濾紙)を用いた薬剤感受性試験です。まず培地(培養基:微生物の培養に用いる物質)の上に薬剤含有ディスクを置き、培地中の水分を吸収させます。すると水分を伝ってディスクを中心に薬剤が拡散します。病原体や抗菌薬によっても多少異なりますが、その状態で1日ほど培養します。薬剤が原因菌に対して有効であれば、ディスクの周囲では原因菌が発育せず、阻止円(菌が繁殖していない円)が現れます。この阻止円によって薬剤感受性を判断します。』とあります。
(阻止円の寸法測定)
https://www.keyence.co.jp/ss/imagemeasure/sokushiri/news/011/

図8(a)は黄色ブドウ球菌、図8(b)は大腸菌を用いた結果が示されています。結果として、HMPUA-4の場合、11.6 ± 0.56 mmの阻止円が観察されたようですが、他のサンプルでは阻止円は現れなかったようです。大腸菌の場合、HMPUA-3、HMPUA -4、HMPUA -5にそれぞれ7.6 ± 0.25 mm、14.6 ± 0.25 mm、8.3 ± 0.25 mmの阻止円が観察されたようです。このことから、HMPUA -4は大腸菌に対して最も高い阻止円が現れたようです。特にリグニンとSiO2の存在が抗菌活性に関与していやようです。リグニンの水酸基と細菌細胞膜との相互作用は、細胞構造の破壊と細胞成分の浸潤を引き起こし、その後、細菌細胞の内容物が放出され、細菌は死滅したようです。

所感です。
リグニンの有効利用に関する研究は盛んに行われていますので、『何を今更…』感があるかもしれません。ただ、今回の研究例はやっていることが非常にわかりやすかったことと、十分な接着強度が得られていることなど、実用性にも十分繋がる結果は高く評価できると思います。ただ、天然由来素材特有の再現性の点では今後の検証が必要でしょう。
また、リグニンを採取する工程では気になるところもあります。まず、水酸化ナトリウムや濃硫酸を使っている点は大丈夫なのか?実験室では良くても、工場で量産となると、あまりやりたくありません。また、遠心分離があるのも懸念点です。遠心分離は実用上ネックとなるので、今後の改良は必要かもしれません。
もっとも、今回の研究例、良くある補足情報がありませんでした。あの膨大な補足データを付けている研究例は良くみかけますが、あれは単に『やった感』を得たい、著者のエゴではないか?と思うほどです。それに対して、今回の研究例は全て本文に収められており、これも非常に良かったと思います。論理的に正しく、スッキリとまとめさえすれば、『必ずしも多くを語る必要はないのでは?』と思いました。
 

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