コーヒーリング効果という現象について、加熱できる二枚のプレート間での挙動を観察したお話です。
Control of coffee-ring formation by vertical thermal gradients in confined droplets
Naruki Takada, Hideki Nabika*
(本文)
https://academic.oup.com/chemlett/article/55/2/upag006/8433693
(補足情報)
https://academic.oup.com/chemlett/article/55/2/upag006/8433693#552170307
まず、『コーヒーリング現象』についてです。
『コーヒーを机などにこぼしたときに、そのシミがリング状になっているのに気づいたことがあるでしょうか?実は、このリング状のシミができる現象は「コーヒーリング現象」とよばれ、科学研究の対象になっているのです。』『水の中に小さな粒子が分散している液滴を、ガラスなどの表面の上に置きます。このとき液滴の周縁部分が、一番乾燥速度が速いところといわれています。そのため液滴の内部では、液体の周縁方向に流れが起こります。この流れにのって、液滴内部にある小さな粒子は周縁方向に運ばれていきます。また、この周縁部分は乾燥が終わるぎりぎりまで位置が変わらないことが多く、ピン留め効果と呼ばれています。これによって、粒子は液滴の周縁部分に蓄積し、液滴の内部には粒子がない、もしくは非常に少ない部分ができます。これがコーヒーリング現象が起こるメカニズムです。』
https://academist-cf.com/journal/?p=10148
https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/31391
今回の研究例では、2つの異なる温度のプレートを上下に配置(例えば下が20℃、上が40℃、Abstractの図)し、温度勾配のある中でコーヒーリング現象を発生させ、様子を見たということです。
まず、Micromod Partikeltechnologie社のカチオン性ポリスチレンラテックス微粒子(直径:1 μm、NR3+末端化)を脱イオン水に分散させ、濃度1 mg mL−1のコロイド懸濁液を調製したようです。
https://www.funakoshi.co.jp/contents/65587#Surf
ここでは粒子表面にトリアルキルアンモニウム基(NR3+)を付加し正のゼータ電位を有する粒子を選定、品番が01-05-103ですので、下記になると思われます。
https://fnkprddata.blob.core.windows.net/domestic/data/datasheet/MPT/01-05-103.pdf
調製した懸濁液を下のプレートの上に滴下してプレート間の距離を5mmとして、液滴の様子を観察したようです。
まず、下が20℃、上が加熱なしの場合です。
図1(a) に見られますように、液滴の高さは時間と共に単調に減少する一方で、液滴と下のプレートとの接触面積はほぼ一定であったようです。
次に、下は20℃のままで、上を40℃とした場合です。
ここでも、液滴と下のプレートとの接触面積は上のプレートを加熱しなかった場合と変化はなかったようです。その一方で、ほぼ蒸発が完了した時間は240分と、上のプレートを加熱しなかった場合には液滴滴下後360分でも液滴が残っていたことから、蒸発時間は短縮化したようです。
更に検討を進めるために、下が20℃、上が40℃、プレート間の距離が5mm、5分後の様子をシミュレーションしたようです。結果が図2に描かれています。
空間の温度分布は20℃から40℃まできれいに温度勾配が付いたものの、液滴の頂点が温度分布を押し上げていることがわかったようです。
図2(b) は温度変化のシミュレーションで、青は液滴の底部分で、下のプレートの温度20℃とほぼ同じ温度を推移したようです。一方、赤は液滴の頂点部分の温度で、開始後、30秒ほどで温度は急激に上昇するも、その後はあまり変化が無かったようです。ただ、僅か2.5℃の上昇とは言え、液滴上部の温度が上がったことは、液滴の蒸発完了時間の短縮化には十分影響を与えたと考察しています。
続いて、プレート間の距離と蒸発時間、リングの大きさについて調べています。
まず、下が20℃、上は加熱しない場合です。図3 (a) に示されていますように、プレート間距離が5mmの場合は蒸発時間が855.9分間でしたが、プレート間距離を11mm、15mm、30mmとすると、蒸発時間が200分間から400分間に減少したみたいです。更に図3 (b) に示されていますように、リングの大きさもプレート間距離が5mmの場合は0.090だったのに対して、プレート間距離を11mm、15mm、30mmと増やせば、リングの大きさも0.066、0.064、0.060と減少したようです。これについて、蒸発時間が長くなればリングの大きさも大きくなるのは、粒子がゆっくりどんどん端へ溜まって行った結果ではないか?と考察しています。
そして、下が20℃、上が40℃の場合、プレート間距離が5mmの場合、顕著な違いが出たようです。図3 (c)に見られますように、蒸発時間が855.9分間から573.5分間に短縮されたようです。これは加熱による熱伝導の影響が液滴とプレート間の距離が近いほど大きくなったと考察しています。しかしながら、図3 (d) に見られますように、リングの大きさは上のプレートを加熱しても影響はなかったようです。
そして、その他のプレート間距離の場合、蒸発時間は未加熱の場合より、やや短くなったにもかかわらず、リングの大きさはやや大きくなったようです。以上より、加熱が粒子を端へ端へやる動きを促進しているのではないか?と考察しています。
図4では、今回見られた現象を考察しています。
2つの可能性があるようです。
1つ目は蒸気圧の相違によるものだそうです。これはギブス-トムソン効果と呼ばれる現象に導かれたようです。
ギブス-トムソン効果については、『ギブス–トムソン効果とは、界面が曲率を持つ場合に、物質の相平衡(融解、凝固、蒸発、凝縮など)の条件が、平坦界面(バルク界面)とは異なる値を取ることを指します。すなわち、粒子のサイズや界面の曲率(凸・凹形状)は熱力学的平衡点(融点、飽和蒸気圧、凝縮圧など)をシフトさせる可能性があります。』とあります。
(ギブス-トムソン効果)
https://note.com/aeddgin/n/nb172436c5042
加熱のない通常状態では、ギブス-トムソン効果により液滴頂点部と比較して下端部での蒸発が促進され、蒸気圧勾配が生じるようです。これにより外向きの毛細管流が生じ、粒子が周辺部へ輸送されます。しかし加熱させると、シミュレーション(図2)では頂点温度が下端部温度を上回り、液滴頂部(図4 (a) 右側)の蒸気圧が増加することが示唆されました。これにより下端部と頂点の蒸気圧差が縮小し、対流駆動力が弱まることになるようです。したがって、加熱により、コーヒーリング形成は促進されるのではなく抑制されるはずです。しかし実際の実験では加熱すると厚いリングが形成されることから、ギブス-トムソン効果による可能性は低いと考えたようです。
そこで、次に出て来たことは『マランゴニ対流』に基づく現象です。
マランゴニ対流については、
『マランゴニ対流は、表面張力が場所によって違っている場合に発生する流れです。 気体と液体との境目を「自由表面」と呼びます。 その自由表面では、分子間力による表面張力が存在します。』とあります。
(マランゴニ対流実験の基礎知識)
https://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/first/marangoni/kiso.html
図4 (b) に描かれています。水の表面張力は温度上昇に伴い減少します。故に、液滴頂点(図2)の高温領域では、より低温の周辺領域と比較して相対的に低い表面張力となるはずです。マランゴニ対流は一般的に、表面張力の低い領域から高い領域へ液体の移動が発生します。本研究でも、より低温の下端部へ向けて外向きに作用する循環流が発生すると考えることが自然です。結果的に外側に厚いリングが形成されたと考察しています。
そして、マランゴニ対流と蒸発速度の定量的関係は完全には解明されていないようです。ただ、今後の研究により詳細な解明が進むことも期待しているようです。更に、今回の研究例では内部流れの可視化を試みたものの、既存装置の分解能により定量化には限界があったようです。しかし、今回の結果は、外部から印加された熱が基材・溶媒・粒子の固有特性に依存せず粒子輸送を調節し得ることを示しているようで、マランゴニ対流が蒸発自己組織化を制御する鍵となる役割を果たしていることも示唆されたようです。このメカニズムは既存の戦略を補完する要素として機能し、コーヒーリング効果に対して、新たな提案となったようです。
所感です。
コーヒーリング効果、今回初めて知りました。
言われれば、小学生の頃に、紙に色物を垂らすと、しみ込んで動いて、どこかで止まって集まるような現象が本に書いてあったような気がします。
そして、それを実際にやってみようとしたように思います。
ただ、そんな身近な現象も、まだまだ解明されていないようです。
本文では実験装置の限界が言及されていますが、今回の研究例はそれをあまり感じさせない、十分意義があったと考えます。
簡単な装置でありながら、何をどのように調べ、どう考えたのか?が最も重要なことと考えます。
必ずしも立派な装置さえあれば、何でも解決できるわけではありません。