新着情報

Informations

ご利用の流れ

HOME

>

新着情報

>

新着情報詳細

雑誌会

2023.10.01

ボトルのサイズは重要です!

この『雑誌会の部屋』は、化学系の雑誌を中心に独断と偏見で研究例を選び、不定期でご紹介していくコーナーです。

シャンパン中の二酸化炭素の量に関する研究例です。

Losses of Yeast-Fermented Carbon Dioxide during Prolonged
Champagne Aging: Yes, the Bottle Size Does Matter!

Gérard Liger-Belair,* Chloé Khenniche, Clara Poteau, Carine Bailleul, Virginie Thollin,
and Clara Cilindre

ACS Omega 2023, 8, 22844−22853

(本文)
https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acsomega.3c01812

シャンパン中の二酸化炭素の量、味にも関係するので、酒造会社にとっては重要でしょう。
ところが、意外なところで、重要視されています。
それは国税庁です。

『炭酸飲料中の炭酸ガス定量についての考察』という研究例には、『関税率表第 22・01 及び22・02 号に分類される物品で,炭酸ガスを含有する飲料水には物品税が課税される
こととなるが,物品税法課税物品表における炭酸飲料は,全重量の10,000 分の5 を超える重量の炭酸ガスを含有するものとなっている。従って,輸入される飲料水のうち必要なものについては炭酸ガス量を定量することになる』とあります。
https://www.customs.go.jp/ccl_search/info_search/foodstuffs/r_22_08_j.pdf

更にその続編のような『ぶどう酒のガス圧と炭酸ガス量』という研究例もあります。
https://www.customs.go.jp/ccl_search/info_search/foodstuffs/r_26_11_j.pdf

そして、国税庁には分析法もあるようです。

国税庁所定分析法
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sonota/kaisei070622/01.pdf

上記研究例では、ガス量といっても、気体となって液中から飛び出た分を測定しているようです。
その飛び出た分については、今回の研究例ではDidgital aphrometerと呼ばれる道具を使ったようです。

http://mitsumori-ltd.seesaa.net/article/452438623.html
https://www.krone.co.jp/krone_needle.html
https://www.youtube.com/watch?v=l16eJulnx0I

一方、溶存した二酸化炭素の定量には、『古典的に化学的分析としてCarbonic anhydrase(炭酸脱水酵素、C2522、Sigma )を用いて行った』とありますが、何をどのようにしたのか?よくわかりませんでした。
なお、下記には、『CO2の水和反応ならびに重炭酸イオンの脱水反応を触媒する.酵素が存在しない場合は, CO2の水和速度は比較的遅く,たとえばpH7でCO2の半量が水和するには18.5秒を要する.これに対して,酵素反応では数千倍から数万倍の速度で反応が進み,平衡に達する.』とありますので、この現象を利用したのでしょうか?
https://photosyn.jp/pwiki/?%E7%82%AD%E9%85%B8%E8%84%B1%E6%B0%B4%E9%85%B5%E7%B4%A0

結局、参考文献40と41を見れば良いのでしょうが…

仕方がないので、とりあえず、溶存した二酸化炭素の定量法を調べました。

水に溶解した二酸化炭素のガスクロマトグラフィーによる簡易定量法
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku1952/31/8/31_8_469/_pdf

水中の二酸化炭素を直接検出
https://www.ihi.co.jp/technology/techinfo/contents_no/__icsFiles/afieldfile/2023/06/16/5c1427060a024232a8793a41156acaf6.pdf

現在の溶存二酸化炭素測定技術
http://www.tactec.jp/download/hamilton_dl/dco2/fh10242-a_current_dissolved_carbon_dioxide_measurement_technology.pdf

いずれも酸脱水酵素には結びつきません。

ようやく、Sigmaの他の試薬のところに『Sigmaの炭素脱水酵素は、溶解CO2を測定する分析機器を開発するために電気化学的トランスデューサーに固定化されています。』とありました。
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/product/sigma/c3934

きっとこれなんでしょうが、結局良くわかりませんでした。
どなたか詳しい方がおられましたら、ご教示いただければ幸いに存じます。

今回の研究例のシャンパン、13種類の古いビンテージものを扱ったようです。
製造年が1996年、 1995年、1993年、 1992年、 1989年、 1987年、 1986年、 1985年、 1982年、 1981年、 1979年、 1976年、1974年で、25~47年ものだったようです。もっとも、1996+25=2021、あるいは1974+47=2021なので、実験は2021年に実施ということになり、『まとめるのに2年間もかかった』ってことでしょうか?

それはそうと、今回の研究例、『Prise de Mousse』という言葉が頻繁に出て来ており、瓶内二次発酵のことのようです。
『シャンパーニュ方式とも呼ばれるもので、糖分と酵母を加えて、瓶内でゆっくりと時間をかけて発酵し、熟成させることで、きめの細かい泡となります。』
https://wsommelier.com/note/2021/02/12/post-3008/
https://www.nomooo.jp/article/2017/11/02/1223.html
http://iewine.jp/article/4779

瓶は主に750ml瓶と1500mlのマグナムボトルの2種類を検討しています。
最後に3000mlのジェロボアムも出て来ます。
https://www.delivery-wine.net/magnum/jeroboam.html


結果です。
図1にCO2の圧力と溶けているCO2の濃度の関係が示されています。
シャンパンの年代を幅広く取ったためか、CO2の圧力の範囲も溶けているCO2の濃度幅も広くなったようです。
圧力が高くなるほど、溶けているCO2の量も多く、直線的な関係になっているようです・。
これはヘンリーの法則に従っています。

ヘンリーの法則については、
https://juken-mikata.net/how-to/chemistry/henry.html

ここで圧力にはよらないが温度に依存する定数(ヘンリー定数):K
となっています。
図1の結果より、ヘンリー定数KHですが、
KH≈1.59±0.14gL-1bar-1となったようです。

上記のように、ヘンリー定数は温度に依存しますが、アルコールの濃度や糖の量にも関係するようです。
それを過去に調べた人がいるようで、式(1)を導き出したようです。
式(1)においてa=エタノールのレベル(% vol)でほぼ12.5%、一方、糖は年代物となるとほぼ使い尽くされて0に近づく?みたいです。
以上より、KH≈1.50 g L-1 bar-1となったようで、上記結果であるKH≈1.59±0.14gL-1bar-1ともよく一致したようです。

なお、ブドウ糖が分解して二酸化炭素とエタノールが発生することは式(2)で表されます。

また、液中の二酸化炭素の濃度CLは式(3)で表すことができます。
CLなどの値は図2を見ればイメージしやすくなっています。
VGはボトルの空間の部分の体積ですが、750mlのボトルで25ml、1500ml(マグナムボトル)で33mlだったようです。
また、図1より、750mlのボトルより1500ml(マグナムボトル)の方が体積のみならず、圧力も濃度も高かったようです。

続いてPGVG=nGRT、R=8.31J K-1 mol-1の関係から式(4)が導かれたようです。
この式(4)はPrise de Mousse=PDM、瓶内二次発酵によるCO2の濃度(CPDM)と、CO2の圧力(PPDM)を表しています。

図3はCO2が瓶の空間に存在している場合の体積VGと液に溶けている体積VL(CO2の濃度から換算?)の比率Xv=VL/VGとCPDMおよびPPDMの関係を示した図です。

750ml瓶の場合は、
Xv≈30で、CPDM≈11.5gL-1、PPDM≈6.1bar
1500mlマグナムボトルの場合は、
Xv≈45で、CPDM≈11.6gL-1、PPDM≈6.2bar
だったようです。

図3を見ると、Xvの値が高いほど(液中のCO2の体積の割合が高いほど)溶けているCO2の体積が多くなり、結果として瓶内二次発酵後の圧力は高くなったようです。
また、理論的な最大値は、
CPDM=n≈0.27molL-1≈11.9gL-1、PPDM=CPDM/KH≈6.3bar(12℃)で、決して理論値を超えることはなかったようです。

図4はシャンパンの保管期間と溶けているCO2の量の関係を表した図です。
どうやら、瓶内二次発酵でCO2は生成し、理論的にも式(4)で表されるものの、直ぐに行き着くところまで行くようで、長い時間軸の中では減少する一方のようです。
結果として、750ml瓶の1974もので、47年間で80%ものCO2が出て行ったようです。
これは、栓が液体は通さないが、気体は通過することが要因と考えられています。
なお、1500mlマグナムボトルでも時間の経過とともに、CO2の放出は起こったようですが、その速度は750ml瓶より遅かったようです。

続いて、図4の結果を更に詳しく見ています。
ここではフィックの法則を適用しています。
フィックの法則については、
(第一法則)
https://www.youtube.com/watch?v=uuVpkmoPFIs

(第二法則)
https://www.youtube.com/watch?v=bKgQDMKrjMs
https://www.youtube.com/watch?v=FWAAU4zw3LU

式をいろいろ変形して、式(8)を導き出したようです。
t は熟成時間、τは指数関数的減衰型モデル (ボトル、ワイン、および王冠のパラメーターに依存する多変数) のタイムスケールとあります。
要はτはシャンパンの栓を抜いて、泡が出なくなってしまうほどCO2が抜けてしまうまでの時間ということでしょうか?

750ml瓶と1500mlマグナムボトルのτの比率は理論的にτM/τB=1.98となるようです。

今回の研究例の実測値は表1にも示されているように、750ml瓶の場合はτB≈37±7年、1500mlマグナムボトルの場合はτM≈67±13年で、τM/τB≈1.81±0.69となり、理論値ともよく一致したようです。

今回の研究例では47年間保管が最長でしたが、もっと長くなるとどうなるのか?
2010年に世界最古のシャンパンか、バルト海の難破船から発見されたようです。
『栓を抜かれたいくつかのボトルは泡を作ることができなかった。これほど長い間海中にあったため、溶存CO2濃度がCO2気泡の核となるのに必要な臨界濃度よりかなり低くなったことは疑いない。したがって、古いヴィンテージのシャンパンやスパークリングワインの賞味期限は、グラスに注いだ後にCO2泡を発生させる能力という観点から検討することができる。』。
https://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-16336720100719

とあります。
その一方で、『「沈没船からシャンパンが引き上げられ、実際に飲むことができた」という逸話はいくつか残されています。1998年には、1916年に沈没したジョンコピング号から「エドシック・モノポール」というシャンパンが引き上げられました。他にも多数のワインやコニャックを搭載していたのですが、「エドシック・モノポール」だけが完全な状態に保たれていたのです。そのため、奇跡のシャンパーニュと呼ばれるようになりました。

 2010年には、バルト海で170年前に沈没した帆船から引き上げられました。168本のシャンパンが引き上げられ、今は存在しない「ジュグラー」という銘柄と、「ヴーヴ・クリコ」ということが判明したのです。フィンランドで試飲会が開かれ、愛好家達が楽しみました。当時のシャンパンは今のものよりずっと糖分が多かったようです。
 『この2つはスパークリングワインだからこそ、生き残ったのです。瓶の中で発生する炭酸ガスの圧力が、水圧による浸水を防ぎ、熟成を進めることができたのです。』
とあり、注いで泡は発生しなかったものの、CO2自体は瓶の中に一定量あったということでしょうか?
https://nikkan-spa.jp/1615727

上記のように、『賞味期限は、グラスに注いだ後にCO2泡を発生させる能力という観点から検討することができる。』とあるように、最後に賞味期限を検証しています。
結果が図5および表2に示されています。
図5では図4同様に時間が経つにつれて、溶存CO2の濃度は下がって行きます。
どうやら、CO2の濃度が4gL-1になったところで賞味期限を迎えると定義したようです。
ここからは750ml瓶と1500mlのマグナムボトルに加えて3000mlのジェロボアムも登場しています。
最終的に賞味期限tBは図5のグレーで囲った部分となり、750mlでは40±8年、1500mlのマグナムボトルでは82±15年、3000mlのジェロボアムでは132±24年となり、賞味期限はボトルの体積に比例したようです。

所感です。
ワインの泡がどうたらこうたらの研究例でした。
著者情報として、
発泡&シャンパーニュ・チーム、(GSMA), UMR CNRS 7331, ランス大学、シャンパーニュ・アルデンヌ、51687 ランス、フランス
とありますので、さすがフランスにはシャンパンを真面目に研究している大学があるということでしょうか?
10年以上前のことですが、たまたまランスには行ったことがあり、過去の写真を発掘してみると、昼ご飯時に青空の元、シャンパンを飲んでいたようです。

もっとも、日本にも『発酵工学科』という学科もあり、『酒造りの学科』と呼ばれ、サントリーやニッカウヰスキーの寄付で常にウハウハという噂もありましたが…
https://www-bio.eng.osaka-u.ac.jp/about/history.html

ところが、本当に酒造りを学ぼうとすると、下記の大学みたいです。
https://hakkou.kuni-naka.com/4990

こんな大学も…
https://miyake-suifu.jp/04college/college.html
 

pdfはこちら

一覧に戻る